杉の枝打ち研究(1)

 

(2004年3月25日)

丹沢水の木の森林クラブの森で、昨年来、自分で調べてみたいと思っていたことがある。

枝打ちの方法について、林業の手引き書では、節の無い木材を作るためには、枝の生え際を深めに切るのが良いとされている。しかし樹木の生理の上からみると、いわゆるブランチカラーを残して切ることが正しいとされている。ブランチカラーは本来幹の一部であり、それを切り落とすと幹を傷つけることになり、そこから腐りがはいる、と言うのが植物の生理学である。

左の図で、枝の付け根に幹が盛り上がっている部分がブランチカラー(襟)と呼ばれている。この部分は幹の一部であり、枝が枯れてもブランチカラーは枯れない。樹木の生理の上ではBで切るのがベストである。

Cで切ると、枝の一部が残り、幹が成長しても残って枯れた枝をカバーできず、腐りが幹の中まで入ってしまう。Aで切ると、幹まで傷つけることになり、幹の成長による修復が遅れ、腐りが入りやすくなる。しかしこの方法では枝の髄を深く取り除けるので、材にしたときに節が小さくなるので林業では勧めている。

Bで切ると、幹を傷つけず、幹の成長で最も早く傷を修復できるとされている。

 

以上の枝打ちの理屈をこの目で確かめたいのと、理屈ではA、B、Cと言うが、実際の枝は複雑な形をしているので、本当はどこがA、B、Cなのかを自分なりに判別したかった。

昨年(2003年2月)に水の木の森に入ったときに数本の杉の木を選び、切り方の異なる枝打ちを施業しておいた。今年の1月に、その後を確認したところ、杉の若い木の快復力に驚かされた。幹の成長力は、多くの傷を修復しつつあった。そして我ながら呆れたのは、どの木をどの切り方で施業したのか記録していなかったのだ。これではちゃんとした記録にならない。

しょうがないので今年枝打ちした切り口、昨年の切り口、一昨年の切り口を、ともかく写真に撮り比較してみた(2004年3月21日)。これを見ながら、今後どのような方法で記録を残したら良いか考えることにした。

 

T.今年の切り口

今年の切り口は、ちょっと雑なのが多かった。つまりBとCの間、あるいは幹の表面と平行になっておらず、斜めになっているのもあった。また、鋸の歯を上側からだけで切り落とすと、最後に折れながら枝が落ちるので枝の芯が割れることがある。

少し枝が残っているがほぼBで切れている。

少し幹を傷つけてはいるがBで切れている。

枝が残っているのでCで切った状態。

切り口が斜めになり、枝の一部を割ってしまった。

 

U.昨年の切り口

わざと色々な切り方をしたつもりだったが、カルスが盛り上がってみると、どんな切り方をしたのか分からないものが多かった。16年生の杉の成長力に感心した。カルスは全体として1cmは成長していた。

ほとんど修復されてしまった傷口。多分Bで切ったのだろう。

Aでの切断のあと。傷口は確かに大きいが、カルスの盛り上がりもすごい。

これもAだと思うが修復は進んでいる。

カルスの盛り上がり状況から見てCでの切断だと思うが定かでない。

 

V.一昨年の切り口

この杉のエリアで初めに枝打ちした木である。どの傷口もほぼ修復されていたが、外見上分からなくなるまでには至っていない。

完全に塞がった傷口。この後、樹皮が形成されれば跡形もない。

もう少しで塞がる傷口。少しCに近い切り方だったのか。

これは斜めに切った後なのか、カルスの盛り上がりも偏っている。

これも上手に切っていない傷跡。同じ幹に残った跡でもこれだけ違う。

 

確かに1年、2年経った時に傷の修復の早い、遅いがありそうだった。ただし、その原因は切り方だけでなく、枝の太さ、方角なども関係しそうである。それら全てを切りわけて、原因と結果を比較するのは大変だ。本当は、さらに年月をおいたあと伐採し、材にした時に節が残るのかどうか確かめなければならない。

どちらにしても切り口一つずつを識別し、数年トレースする必要はありそうだ。また木の個体差による修復の速さの違いを無くすには、1本の木の上で切り方の違いを作って比較する必要がありそうだ。

次回に水の木の森に入るまでに計画を作ることにする。

 

 

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