ウソの花・ホントの花

2007年7月19日

「装飾花」と呼ばれる花がある。ごぞんじのアジサイがその代表である。
植物にとって花は、種を作るための器官で、子孫を残すために、植物は必ず花を咲かせる。
ところが、この装飾花は種子を作らない、飾りの花なのだそうだ。

左の写真はガクアジサイの花。
チョット見には、花が周りから咲き始めていて、中央部はこれから咲く蕾のようにも見える。
ところが、ルーペを持ってきてよく見てみると(右)、中央部の蕾に見えたところには、既に沢山の花が咲いている。
ちゃんと雄しべが10本あり、真ん中にV字形の雌しべもある両性花(本当の花)だ。

じゃ、周りの花は何なのだ、と、これもよく見てみると、花の中央に、何か鼻くそのようなものがある。
だけど、それ以外の雌しべや雄しべが無い。だから装飾花(ウソの花)なのだ。
ガクアジサイの花の数カ月後は、装飾花が落ち(いつまでも残ることもある)、種子ができている。

なぜ装飾花(ウソの花)ができるのか。種子を作るだけならば、雄しべと雌しべがあればいい。

自分で動くことのできない植物は、遠くにある仲間の花粉で受粉するためには、風か動物に頼るしかない。
動物(昆虫や鳥)に花粉の運搬を頼るには、なるべく目立って、運搬者を集める必要がある。
そこで花は、一般的に華やかで、綺麗で、良い香りがして目立っているのだ。
じゃ、ガクアジサイも全部の花が目立つように、花びらを付ければ良さそうなものなのだが。

多分、華やかに目立つためには、エネルギーがたくさん必要になる。人間だって同じだ。
なるべく少ないエナルギーで、多くの種子を得るために、
効率的に花粉運搬者を集める工夫の結果が、ガクアジサイの花になったのだろう。

その進化の過程で、たまたま生まれた、変わり種がアジサイ
何と、花がすべて装飾花に突然変異してしまった。当然、種子ができない。
人の手で無性繁殖を繰り返し、少なくとも数百年経っている。

同じような進化をした花は、他にもいろいろある。
まず、同じユキノシタ科アジサイ属で、装飾花を持つ花の木は、
アマチャ                  ヤマアジサイ                 タマアジサイ

ガクウツギ
ガクウツギ                   ノリウツギ

離弁花類のユキノシタ科に対し、合弁花類のスイカズラ科にも、よく似た花が多くある

ムシカリ                             ヤブデマリ

写真を見ると、合弁花なので、装飾花の花びらの元が、つながっているのが分かる。
この装飾花の花びらは、花弁そのものだが、前のユキノシタ科の花びらは萼の変化したものだ。
さらに面白いことに、アジサイと同じように、全部が装飾花になってしまった花もある。

オオデマリ

花ではない、と言うことでは本当に、ウソの花になるが、
同じように、葉が変化して目立つようになる植物がある。
普段は普通の葉だが、花の時期に葉の表が、真っ白になるのはマタタビの葉だ。
花粉の運搬者を呼ぶため、と言われている。

花の時期の葉                          実の時期の葉

花の形や色が、なぜそのようになっているのか、を考えると面白い。
そもそも花は、葉が変化してできたものだという。
種子を残すために、いろいろな変化の中から、優れた樹が今の時代に生きている。

 

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