シナノキ 学名 Tilia japonica
別名 シナ・メジナ、マダノキ・マダ、ネソノキ、ヘラ、
椴(中)
科の木、級の木 分類 シナノキ科シナノキ属 (落葉高木)
「シナ」は、アイヌ語の結ぶ・縛るの意、アイヌ語では、この木を「ニペシニ」と呼んだ。縛るものという意味。 APG分類 アオイ科シナノキ属 (落葉高木)
原産・分布 北海道、本州、四国、九州。日本固有種。
神奈川県 丹沢・箱根のブナ帯に生える。小仏山地にもまれに見られる。
用途 庭木、公園樹、建築・器具材、鉛筆材、ベニヤ、パルプ
山地に生える。
シナノキ属には、他にオオバボダイジュが関東北部以北に、ヘラノキが関西以西に分布する。シナノキは、最も広い範囲に分布する。神奈川県の自生はシナノキのみ。

高さは、大きいもので30mになる。丹沢の尾根すじには、大きなシナノキが多く、花の季節には細かな花びらが落ちていて気づくことがある。

長野県の古名である信濃は、古くは科野と記したとされている。シナノキが多かったと思える。


箱根
湖尻
040829
花期の樹

上野原市
秋山
140715
樹皮は、帯灰褐色で縦に裂ける。若木と成木、老木とで樹皮の表情が異なる。

写真下、檜洞丸の尾根にある口を空けた老木は、太い幹が倒れた後のひこばえと思える。

内皮は、靱皮繊維が強く、ロープやシナ布などに利用された。全国に分布し、各地で利用していたことが、地方名の多さから分かる。下欄「こぼれ話」参照。水に強いので、酒・醤油のこし布、船のロープなどに使われた。


箱根
湖尻
050830
若い幹

丹沢
新大日
060223
成木

丹沢
天王寺峠
050816
老木

丹沢
檜洞丸
080517
葉は互生し長い葉柄がある。
葉身は心円形、先は鋭尖頭、基部は通常心形で左右がアンバランスになる。表面は濃緑色で無毛、裏面はやや白色を帯び、脈腋に褐色の毛がある。縁には不揃いの鋸歯がある。
葉表

箱根
湖尻
050830


上野原市
秋山
230715
葉裏

上野原市
秋山
230715
6〜7月に、葉腋から散房状の花序を下向きに出し、10個以上の花をつける。花序の柄には、ヘラ状の苞が1つつく。この苞は、シナノキ属の特徴(写真上)。

花は両性花で10mmほどの大きさ。萼片、花弁はともに5枚で、雄しべは多数、雌しべは1個。よく見ると雄期と雌期がズレているのが分かる(写真下)。左が雌期、右が雄期
淡黄色の花は香りがよく、良質の蜜源になる。
苞と蕾

丹沢
神の川
110623


上野原市
秋山
140715
花拡大


上野原市
秋山
230705
果実は、ほぼ球形の堅果で、約5mm。灰褐色の短毛を密生する。熟すと果序についたまま苞と一緒に落ちる。苞がプロペラの働きをして、母木から遠くに散布される。 若実

箱根
湖尻
050830
一年枝は、黄褐色〜褐色あるいは赤褐色で、ツヤがあり、皮目が散生する。
冬芽は卵形〜広卵形でツヤがあり無毛。芽鱗は2枚見え、外側が小さく、内側のが大きく芽全体を包む。この冬芽の形もシナノキ科の特徴。
冬芽

丹沢
表尾根
060223
春に柔らかな薄緑の新葉が展開する。まだ赤味を帯びた芽鱗と托葉が残り、色彩的にも美しい。 芽吹き

丹沢
檜洞丸
080517
独特な形の子葉。通常は5〜7裂の掌状になる。初めに開く本葉は細長く、芽生えからシナノキは分かりにくい。 芽生え

群馬県
みなかみ町赤谷
130602
シナノキハコブフシ
タマバエにより形成される。葉の両面がともに膨れる。紅赤〜黄緑色で、内部に1匹の幼虫がいる。6月に3齢幼虫が、葉の裏から脱出する。
葉虫こぶ

丹沢
水の木
050619
こぼれ話「シナ布」
江戸時代にワタ(アオイ科)の栽培が普及し、綿布が一般に使われるようになる前は、山野に自生する植物の繊維から作った布が多く使われていた。フジ、シナノキ、コウゾ、カラムシ、クズ、バショウなどを原料としたこれらの布は古代布とも呼ばれている。古代布は丈夫だったので作業着として、あるいは縄や漉し布などに使われていた。しかし、着心地や保温性に優る綿布の普及に伴い、衣類としての役割を終えることになる。
シナノキはその名前の語源にあるとおり、アイヌが古くから衣類や織物を作った。樹皮から作った布はシナ布と呼ばれ、特に水に強いために、帆船の帆あるいは船ロープなどとして今でも使われている。
山形から新潟にかけて受け継がれたシナ布の技術は、「羽越シナ布」として国の伝統工芸品に指定されている。帽子、バッグ、履物、装飾品、ランプシェードなどの工芸品が作られている。写真は新潟県立歴史博物館での展示品。

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